歯周病

歯周病は感染症です

歯周病は感染症です

侵襲性歯周炎の原因菌とされるAa菌(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)は、大人から大人へと感染することはありません、まだ 永久歯が完全に生えそろわない10歳頃に大人から子供へ感染することが研究により明らかにされています。

*Scand J Dent Res. 1976 Jan;84(1):1-10.
The predominant cultivable organisms in juvenile periodontitis.

子供の口腔内はまだ細菌のグループが安定していないため、外来から感染を起こします。
また、抗生剤を長期服用していた場合などは、口腔内の健康な細菌グループがいったんいなくなるため、新たに細菌の環境がそろう前に細菌に感染する可能性があります。

その他の歯周病細菌についても夫婦間や親子間で感染していることが多くの研究で明らかにされています。

唾液を介した感染が主なルートであれば、歯周病治療後の再感染を防止したり、歯周病細菌を持っている人がそうでない人に移さないようにすることは重要です。 歯周病治療を行う場合には、ご本人の治療を行うだけでなく、生活を共にしている家族全ての人の治療が必要ということになります。

人間の身体にはさまざまな部位で細菌が生息しています。口腔内に生存する細菌の種類は500~700種類と言われています。口腔内に存在するデンタルプラーク中の細菌はものすごい数です。
デンタルプラーク1mg当たりの細菌の数は1億個も存在します。デンタルプラークは細菌の塊なのです。

「えーそんなに細菌がいるの?」と思われるかと思います。
しかし、口腔内に生息する細菌が全て問題なのではありません。
正常細菌叢(せいじょうさいきんそう)と言われる細菌は、健康な身体に住み着く細菌です。
これらの正常細菌叢は、外部からの絶えまなく侵入してくる病原微生物からの攻撃を防御しているのです。

ただし、これが悪いわけではありません。
常在細菌は常にバランスを保っており、特定の細菌が増えないようにコントロールされているのです。

しかし、衛生面を極度に意識し、過剰な消毒を繰り返すことによりそのバランスが崩れて悪影響を及ぼすこともあります。細菌が存在することは決して悪いことではないのです。
先程説明したように 口腔内の歯垢(しこう)には、1mg当たりの細菌の数は1億個も存在します。
唾液には、1ml当たり105~109個存在しています。これは正常な状態なのです。
問題となるのは、細菌のバランスと種類なのです。

好気性菌と嫌気性菌

好気性菌は、酸素がないと生育できない。反対に酸素がなくても生きていける菌を嫌気性菌という。
歯周ポケット内のデンタルプラーク中に生息する細菌のほとんどは、嫌気性菌です。
嫌気性菌が歯周病の原因となるのです。

喫煙者は、非喫煙者に比べ、歯周病の進行は6倍以上も早いという事が、研究で明らかにされています。喫煙者の歯周ポケット内部の酸素濃度は非喫煙者の半分程度というデータから喫煙者は嫌気性菌が繁殖しやすい環境であることが分かります。

歯肉縁上プラークの細菌は唾液中のアミノ酸をタンパク源として生活しており、また食物中のブドウ糖や果糖なども栄養源としています。
歯周ポケット内細菌は歯肉溝浸出液中のアミノ酸をタンパク源としています。

Periodontol 2000. 1994 Jun;5:142-68.
Antimicrobial strategies for treatment of periodontal diseases. J. Max Goodson

歯の表面(歯根面)には、ペリクル(唾液の糖タンパク質)という薄い膜が存在します。
歯は酸(乳酸)により溶けていくのです。
ペリクルは、細菌による酸から歯を守る重要なバリアーと思って下さい。
しかし、反面細菌が付着しやすくなっているのも事実です。
歯肉縁上プラーク細菌の中には食物中のショ糖から粘液性多糖体(不溶性グルカン)を作るものがります。

また、細菌自体が歯面に付着しやすい線毛等を、持っているものもあります、歯面に付着しにくい細菌は粘液性多糖体(水不溶性グルカン)を介して凝集していきます。
歯の表面に、ペリクル(唾液の糖タンパク質)という薄い膜が形成されます。このペリクルに付着しやすい細菌(歯周病にとって悪性度の低い菌)が住みつきます。さらに嫌気性菌(歯周病に悪性度の高い細菌)が付着します。細菌同士が手に手をとって集まり共凝集していきます。

この細菌が集まった状態をバイオフィルムと言います。
台所の流しの排水口のところなど、ぬるぬるとしたものがへばりついています。それを落とすには水を流したくらいではだめで、たわしでこすらないと落ちません。これがバイオフィルムで、口の中ではプラークと呼ばれているものです。ぬるぬるとしているものの正体は莢膜多糖体(きょうまくたとうたい)です。この莢膜多糖体は糖であるがゆえに、非自己として認識されないために免疫応答がおこらず、免疫細胞の攻撃から菌を守っています。また、抗菌薬も多糖体内部に浸透することが出来ず、嫌気性菌の毒素には外毒素と内毒素があります。
外毒素は、タンパク質を分解する酵素を産生し、歯周組織を構成するコラーゲン組織を破壊します。
コラーゲン組織が破壊されると歯肉は出血しやすくなります。

嫌気性菌の中には増殖する過程で硫化水素を産生します。
これが強い悪臭を放ち、口臭の原因の一つとなっています。

歯周病で歯肉が腫れている人に単に抗生剤を服用してもこの効果を最大限に発揮することは難しくなります。
バイオフィルムというバリアに守られている細菌は薬液による効果は、ほとんど認められません。
TVのコマーシャルで見ているような細菌の破壊は決しておこりません。
したがって、現時点ではブラッシングが唯一効果のある予防方法になっています。
歯周ポケット内部に侵入した細菌を排除(駆除)する方法は、スケーリング・ルートプレーニング以外にはないでしょう。
細菌の住処であるバイオフィルムは機械的に除去することが最も効果があります。

バイオフィルムを機械的に除去すると劇的に嫌気性菌は減少します。
しかし、100%の細菌が除去できるわけではないので12~16週後にはもとの菌叢に戻る傾向がみられます。また、使用した歯ブラシに付着して生き残った細菌が再度感染を起こす可能性も指摘されています。

Aa菌は、歯磨きを行った後に 69%も歯ブラシに付着して残っているという研究で明らかにされています。また、歯ブラシに残ったAa菌は、24時間後でも23%が生き残っているというのです。